古いタイヤの横に鳩
2020年10月31日〜11月2日

この場所の風景は、明日には、なくなってしまうんじゃないか。
そう予感させるような、あやうい風景に魅かれます。きっとすぐに消滅していくであろう風景の断片を残しておきたくて、写真を撮ります。
断片にはディティールが宿り、よりリアルな肌感覚を残します。カメラによって断片に切り刻まれた風景。
その写真を展示し再構築すると自分の記憶の中にある、その場所の風景が、より生々しく立ち上がってくるのではないかと考えています。
残った断片としての風景は、単にそこに存在した場所ということではなく、自分の記憶の中にあるあやふやな風景とも結びつき、どこにもなかった場所として、新たに作り出されていきます。

確かにそこにあって、自分が見ていたモノなのに、カメラで撮って写真で見ると、なにか違う。
光の当たり方なのか、切り取り方なのか、ピントがあっていないのか、あるいは一緒に写っている他の何かにひっぱられているのか。
自分の見たモノの印象とは違うのです。そんな不思議を抱えて、整理される前のモノを撮り歩いています。

写真になって違って見えてくるモノたち。さらに、たまたまそこにあった無関係なモノたち同士は、写真の中に新たな関係性やリズムをつくりだします。
カメラによって収集してきたモノは、実際のモノとは違った存在感を放ち、見たはずの世界とは違う別の世界を浮かび上がらせます。
むしろモノ同士が、たまたまではなく、何かを語るために必然性をもってそこに一緒にあったのではとすら考えてしまいます。

記憶に残るのは、自分が見たであろう世界の印象ではなく、写真が作り出した世界の断片です。